2014年10月04日

小さな事業者の倒産と再生

 銀行からの借金などの多重債務で苦しんでいる企業にとって、最後の手段は破産です。しかし、多重債務を軽減し、窮境を脱する手段は破産だけではありません。いざというときのために、破産、民事再生や私的再建について基本的な知識を得ておくべきでしょう。

第1 破産とはどのような制度ですか
 1 自己破産とは、債務者が自ら破産手続開始の申立てをすることです。
   これに対して、債権者が申し立てる破産手続のことは債権者破産と呼ばれています。
   自己破産の申立て件数は、最近は、1年間で全国で14万件前後です。
 2 自己破産申立てをすると、債務者はどのような状況におかれますか。
   同時廃止の場合
     同時廃止とは、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」に、破産手続の開始の決定と同時に、破産手続廃止(終了)の決定をすることをいいます。
   管財事件の場合
     東京地裁の場合、管財人の費用である20万円以上の財産を有している場合は、管財事件となります。
     20万円以上の財産を有していなくても、否認権の行使やサラ金に対する過払金請求によって20万円を超える財団を形成することが可能な場合など、破産管財人が換価・処分すべき資産があるときは管財事件となります。
     債務者に免責不許可事由があり、裁量免責の可否を管財人が調査する必要がある場合も、管財事件となります。
 3 自己破産申立てをするメリットは何ですか
   自己破産によって、債権者に対して公平な配当をするとともに、個人である債務者の免責(債務の免除)が得られます。
 4 自己破産すると、一切の財産を失うのでしょうか
   個人の債務者の場合、一定の財産は自由財産とされます(99万円までの現金、残高が20万円以下の預貯金、20万円以下の保険解約返戻金、処分見込額が20万円以下の自動車、賃借住居の敷金、支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金、支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金の8分の7、家財道具など)。
 5 自己破産をするデメリットは何ですか
   もちろんデメリットはあります(「○○士」などの資格は免責決定を受けるまで失われることが各種業法などに定められています)。
しかし、一般に言われていることには誤解もあります。例えば、「破産すると選挙権や被選挙権を失う」といったことはありません。就職の際に不利益を受けることもまずありません。
 6 事業の再生のために自己破産が役に立つことがありますか
   免許を要する事業など法人格を維持しなければいけない場合以外であれば、多重債務を抱えた会社は破産させ、破産管財人の許可を得て事業を別会社に譲渡することなどによって、実質的に事業を継続・再生できることもあります。
 7 自己破産の申立てにかかる費用はどれくらいですか
   しいの木法律事務所では、会社と会社代表者の破産手続の場合、弁護士費用として最低で42万5000円(会社の規模、債権者の数等が特に大きい場合は弁護士費用が高くなります)と数万円の実費をいただいています(分割払いが可能です)。
   他に、破産管財人の費用として20万円が必要です。
 8 自己破産しても自宅に住み続けられる場合があるというのは本当ですか
   自己破産は財産を全て換価して債権者への配当に充てる手続ですから、債務者が所有している自宅も処分しなければいけません。しかし、破産管財人の許可を得て、自宅を親族などの関係者が譲り受け、譲受人と債務者との間で賃貸借契約を結ぶなどの方法によって、自宅に住み続けることができている人も居ます。
 9 破産申し立てすることによって、従業員にはメリットがありますか
   多重債務に苦しんでいる企業では、従業員への賃金の支払が滞っているケースがしばしばあります。
   破産手続開始申立ての日の6か月前以降に在籍していた従業員に未払賃金がある場合、その従業員は、「未払賃金の立替払い制度」を利用して未払賃金の8割程度の支払を公的資金から受けることができます。

第2 民事再生とはどのような制度ですか
 1 民事再生とは
 民事再生は、再生債務者である企業の再建(維持再生)を図る手続です(個人も民事再生手続を利用できますが、個人の場合は個人再生の特則を利用できる場合が多い。個人再生については後述します)。
   民事再生は、原則として再生債務者自身の業務遂行権や財産の管理処分権を認める自主的再建手続です。もっとも、東京地方裁判所の運用では原則的に監督委員が選任され、その監督を受けます。
 2 申立ての要件(破産との違い)
   民事再生は、@再生債務者に破産原因たる支払不能、支払停止または債務超過の生ずるおそれがあるときに加え、A再生債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき(例えば、主要な生産設備の売却や高利の借入等による資金調達手段が残っていても、これを行えば事業の継続に著しい支障を来すとき)に申立てが認められます。つまり、破産とは異なり、再建の体力が未だ残っている段階で申立てをすることができます。
 3 再生計画とは
   再生債務者は、一定期間内に再生計画を作成します。
   再生計画は、再生債務者の債務の一定額を10年以内で弁済し、その余の債権額は免除してもらうことが基本になります。
   例えば、1億円の債務がある場合、その10%である1000万円を100万円×10年間で分割払いし、9000万円については免除してもらうなどの再生計画の内容になります。
 4 再生計画の可決要件
   再生計画は、議決権のある再生債権者で決議に出席した者の過半数(頭数要件)で、議決権ある再生債権者の議決権総額の2分の1以上(議決権額要件)の同意によって、成立します。
 5 民事再生が正当化される理由=清算価値保障原則
   破産のおそれのある企業がそのまま破産してしまった場合、債権者は管財人を通じて清算価値の配当を受けることになります。あるいは、自己破産などの法的手続がとられなければ、債権者は、全く支払を受けることができないかもしれません。
   民事再生によって、破産による配当額を上回る弁済をする再生計画を作成して実行することによって、債権者は、破産の場合を上回る弁済を受けることができます。
   上記の例の場合、もし会社が破産すれば配当額は100万円にしかならないことが見込まれる場合、再生計画によればその10倍の1000万円の弁済を受けることができるのであれば、再生債権者にとって、破産よりも経済的に合理的ということになります。
 6 中小企業者に対する弁済、少額債権の弁済の特例とは何ですか
   民事再生においては、取引先である中小企業に対する弁済や少額の債権の弁済について、一定の要件のもとで優遇することが認められています。
 7 民事再生にかかる費用はどのくらいですか
   再生計画の作成、実行のために、相当長期間にわたって代理人弁護士や税理士のサポートを受けることになりますから、一定の費用がかかります。詳細はご相談下さい。

第3 個人再生(小規模個人再生・給与所得者等再生)とはどのような制度ですか
 1 民事再生の特則で、住宅資金特別条項(後述)を利用する住宅ローンを除いた債務総額が5000万円を超えない場合に利用できる制度です。
 2 小規模個人再生
   再生債務者は裁判所の定める期限までに再生計画案を作成し、裁判所はその再生計画案を債権者に送り、書面による決議を行います。
   債権者の頭数で2分の1以上又は債権額で2分の1を超える不同意がない限りは、再生計画案は可決されたものとみなされます。
   再生計画案の内容は、清算価値を上回る弁済を、原則3年以内(特別の事情がある場合は5年まで可)で行うものでなければなりません。
 3 給与所得者再生
   2年分の可処分所得から政令で定められた標準生計費を除いた金額を3年間で分割弁済します。債権者による決議は不要です。
   上記の弁済額はかなり大きなものになるため、現在ではあまり利用されず、ほとんどの場合小規模個人再生が利用されています(但し、債権者の多数が不同意意見を述べることが確実な場合などには、給与所得者再生が利用される場合もあります)。
 4 再生計画の最低弁済基準額
   @債権額が500万円未満の場合
 弁済額は100万円です。
A債権額が500万円以上1500万円以下の場合 
  弁済額は債権額の5分の1です。
B債権額が1500万円を超え3000万円以下の場合
  弁済額は300万円です。
C債権額が3000万円を超え5000万円以下の場合
  弁済額は債権額の10分の1です。
ただし、いずれの場合も弁済額は清算価値(債務者について破産手続が開始された場合に債権者に配当される総額)を下回ってはならないという原則があります。
5 住宅資金特別条項とは何ですか
   住宅資金特別条項は、通常の民事再生法上の制度であり、小規模個人再生、給与所得者再生でもしばしば利用される制度です。
   一言で言えば、住宅ローン債務だけ全額弁済して住宅を維持することを認め、他の債務については再生計画に従った一定割合の免除を認め、住宅ローンと住宅の維持についての特別扱いを認めることによって、再生債務者の再生を助けようとする制度です。
 6 住宅資金特別条項の使える「住宅」とは、どのような要件ですか。
   下記の要件を満たしていることが必要です。
   @再生債務者が所有していること
   A自己の居住の用に供する建物であること
   B建物の床面積の2分の1以上が専ら居住の用に供されること
   C以上の要件を満たす複数の建物があるときは、主として居住の用に供している建物であること
 7 住宅ローン以外に住宅に抵当権が設定されている場合も住宅資金特別条項は利用できますか
   住宅や住宅の敷地に住宅ローン債権以外の債権の抵当権が設定されている場合には、住宅資金特別条項は利用できません。
   ただし、再生計画案の提出の時までに、後順位抵当権を消滅させることが相当の確度をもって見込まれるなどの事情があるときは、住宅資金特別条項を利用することを前提として手続を進めるのが実務の扱いです。
 8 個人再生にかかる費用はどのくらいですか
   しいの木法律事務所では、住宅資金特別条項を含む個人再生の申立ての弁護士費用を262,500円及び数万円の実費としています。

第4 私的再建と呼ばれているのはどのような手続ですか
   破産や民事再生(大企業では会社更生)によって、裁判所が関与して、事業の清算価値を把握して、平等な弁済や、清算価値を上回る弁済をすることによって債権者と債務者との利害を調和して事業の再生を図ることが可能です。
   しかし、裁判所が関与する手続を行うことによって、倒産した会社とのレッテルを貼られ、事業価値が低下してしまうことがあります。
   また、裁判所が関与する手続では債権者間の平等が強く要請されるため、日常的な取引相手に対する買掛金なども平等に扱わざるを得なくなる結果、従来の取引関係の維持が難しくなることも生じます。
   そのようなデメリットを避けるために、私的再建と呼ばれる手法がとられる場合があります。
   金融機関だけを対象にしたリスケジュールも私的再建の一種といえますが、普通は、リスケジュールにとどまらずに、金融機関に対して、民事再生手続と同様の債権カットを求め、金融機関との間の合意によって、これを実現する手法のことを言います。
   債権カットや事業の再生を進める上で、別会社が設立される場合もしばしばあります。
   金融機関にとっては、破産や民事再生によって得られる弁済額よりも、私的再建によって事業価値の低下を防ぐことによって、より大きな弁済額が得られるのであれば、私的再建に合意する合理性があるといえます。
   私的再建の手法が利用可能かどうかについては、中小企業再生支援協議会での相談を利用してみるとよいでしょう。
posted by siinoki at 07:39| 法律相談・労働相談