昨年12月に新宿の紀伊国屋で目にして買って読んだ本の紹介です。
石埼学さんの「デモクラシー検定 民主主義ってなんだっけ?」(大月書店)
石埼学さんは私と同じ年生まれです(つまり世間の目からすれば、もはや青年ではなく、おじさんになってしまった世代)。ですが、いつも大学で若い学生と憲法を語っているだけあって、どの部分を読んでも紋切り型ではなく、若い世代の人たちはどういう視点から民主主義を理解するのかを深く考えて書かれています。
例えば、「個人の尊重」について、自分が「生きているって感じ」を自らもつことで十分だし、他人も「生きているって感じ」を感じられればよいのではないか、というのが石埼さんのとりあえずの結論です。
9条の会やその他の平和運動、民主主義運動にかかわっている上の世代の人たちに、青年が共感する石埼さんの憲法感覚が理解できるこの本をおすすめしたいと思います。もちろん、高校生や大学生、選挙や憲法問題について主権者として判断しなければならない若い人たち自身にとって、考えをおおいに助ける本であることは間違いありません。
もうすぐ地方議会選挙がはじまります。「議会制」について石埼さんは「政治参加はあきらめも肝心」と書いています。2005年の衆議院選挙で自民党が「日本を前へ。改革を前へ」、民主党が「日本をあきらめない」と、両方とも具体的に何をしたいのかさっぱりわからないあまりにも抽象化されすぎてほとんど内容のないスローガンの中で、シンボルとしての「日本」という言葉だけが強調されて独り歩きするような状況になっているが、有権者は議員に別に自分たちのことを代弁してもらいたいと思っているわけではない、とあきらめすぎのような状況が広がっていることを危惧しているようです。
小選挙区制を導入し、マスコミがあおって作り出そうとしている二大政党制は、石埼さんが危惧しているあきらめすぎの状況を間違いなく拡大してしまいます。
近づく選挙では、二大政党制の枠を打ち破り、支配勢力との妥協のために公約を破ることなど絶対にしない勢力を前進させて、庶民の利益を守る政策を実現させ、石埼さんに、「あきらめも肝心」の部分は少し書き改めてもらいたい、と石埼さんのファンである私は勝手に思っています。
(2007年4月15日追記)
都知事選挙で石原知事が当選しました。しかし、石原氏のオリンピック招致の政策や学校現場での日の丸君が代の強制を多数の都民が支持したわけではありません(石原氏の絶対得票率は今回当選した知事の中でもっとも低い水準であり、もちろん過半数には大きく届かない)。
私は吉田万三候補を支持しました。吉田候補の税金は大規模開発ではなく福祉と暮らしにという訴えは、当選には結びつきませんでしたが、石原氏や他の有力候補者の選挙政策にも影響を与えました。
選挙結果が出た後、有力候補だった一人が、石原氏に対して「堂々と都民のための政策をすすめてほしい」などとエールを送っていたことは残念です。都知事選挙で石原氏とたたかった有力候補には、民主主義は選挙が全て、選挙は勝ち負けが全てであったようです。子どもや教員の尊厳や良心の自由を踏みにじる日の丸君が代の強制は、多数決によっては決して正当化されないということを、果たして彼は理解していたのでしょうか。
石埼さんの本の中には、ベトナム戦争の時代にゴダール監督らが作った『ベトナムから遠く離れて』という映画の中での、『二つ三つ、数多くのベトナムをつくれ』という台詞が出てきます。アメリカのベトナム侵略に抵抗するためにベトナムに行くのではなく、世界各地でアメリカの侵略的な政策に抵抗し、それぞれのいる場所で闘おうというメッセージです。注目される都知事選挙の候補者には、それぞれの持ち場で民主主義のための抵抗を続ける人々を選挙の勝敗にかかわらず勇気づける見識を持ってほしいものです。
2007年03月23日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/3581850
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
『教育とは何か』
Excerpt: こんばんは。最近、家でゆっくり本を読む時間が少ないので、通勤電車のなかで本を読むことが多くなりました。また、福祉施設の支援スタッフとして、障害者の人たちと関わっていく中で、目の前にいる障害者の人たち..
Weblog: 右近の日々是好日。
Tracked: 2007-03-24 22:41
「国民投票法案」(2)…一般的なコメント?に答えて
Excerpt: 以前にあげた『「憲法改悪阻止にまけて」…復習の意味を込めて』というエントリに「権利侵害をやめて」というハンドルの方からコメントされた。コメント欄でお答えしようと思ったのだが長くなりそうなので、新たに..
Weblog: dr.stoneflyの戯れ言
Tracked: 2007-04-04 12:02
強姦事件と民主主義論
Excerpt: 確かに、男女で子孫を繁栄させること自体は正しいことで、子孫が残らないということは人類が消滅することだし、自分自身の存在も父母・祖先の子孫であることを考えると男女の子孫繁栄のための性行為はよいことだし..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:20
民主主義とは何かー逐条批判をしない一般国民の運動は妄動かー
Excerpt: 質問:個人として、教育基本法改正案に賛成しておりません。 しかし、改正案を総じてすべてダメだと言及するつもりはありません。 ここでもそうですが、多くの反対派ブログでも改悪だとして批判するのですが、みな..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:21
大学教育とは何かー教育基本法改定を念頭においてー
Excerpt: 質問:外国にあっても、日本にないのもは翻訳不可能なことはわかります。だから、日本に外来語があるのですね。それでいいと思います。この点は異論なしなんです。しかし、kaetzchenさんは学者ですが、一..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:43
強行採決論ー自民党・公明党の議員を罷免・落選させようー
Excerpt: 自公連立政権が成立(1998年・自自公連立としてスタート)して8年が経過しました。今現在、与野党で立場が異なる重要法案があります。?教育基本法改定案 ?共謀罪創設案 ?憲法改定国民投票法案 ?自衛隊..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:45
民主主義と最高意思決定 ー自民党 ・公明党の議員を落選させようー
Excerpt: 日本国は民主主義的政治体制です。ゆえに、国民要求の熟した問題について大胆かつ強力に政策を断行せねばなりません。小泉・安倍政権は国民要求を蹂躙し、欺きながら強力に政策を断行してきました。民主党政権は..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:48
自己責任論への反論ー人間と権力制度の関係ー
Excerpt: 人間の精神を問題にする場合に、権力制度と思想の関係、社会慣習と個人意識の関係、人権と民主主義の関係を認識する必要があるのではないでしょうか。 そもそも、人間は生まれながらにして犯罪・戦争する存在..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:48
浅野氏を担いだ二人の論客、選挙が終わってみればグダグダ
Excerpt: 日本の政治は機能していない。政治家は不要だ(天木直人のブログ2007/4/20) http://www.amakiblog.com/archives/2007/04/20/#000347 一方19日..
Weblog: +++ PPFV BLOG +++
Tracked: 2007-04-21 21:29
http://blog.sakura.ne.jp/tb/3581850
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
『教育とは何か』
Excerpt: こんばんは。最近、家でゆっくり本を読む時間が少ないので、通勤電車のなかで本を読むことが多くなりました。また、福祉施設の支援スタッフとして、障害者の人たちと関わっていく中で、目の前にいる障害者の人たち..
Weblog: 右近の日々是好日。
Tracked: 2007-03-24 22:41
「国民投票法案」(2)…一般的なコメント?に答えて
Excerpt: 以前にあげた『「憲法改悪阻止にまけて」…復習の意味を込めて』というエントリに「権利侵害をやめて」というハンドルの方からコメントされた。コメント欄でお答えしようと思ったのだが長くなりそうなので、新たに..
Weblog: dr.stoneflyの戯れ言
Tracked: 2007-04-04 12:02
強姦事件と民主主義論
Excerpt: 確かに、男女で子孫を繁栄させること自体は正しいことで、子孫が残らないということは人類が消滅することだし、自分自身の存在も父母・祖先の子孫であることを考えると男女の子孫繁栄のための性行為はよいことだし..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:20
民主主義とは何かー逐条批判をしない一般国民の運動は妄動かー
Excerpt: 質問:個人として、教育基本法改正案に賛成しておりません。 しかし、改正案を総じてすべてダメだと言及するつもりはありません。 ここでもそうですが、多くの反対派ブログでも改悪だとして批判するのですが、みな..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:21
大学教育とは何かー教育基本法改定を念頭においてー
Excerpt: 質問:外国にあっても、日本にないのもは翻訳不可能なことはわかります。だから、日本に外来語があるのですね。それでいいと思います。この点は異論なしなんです。しかし、kaetzchenさんは学者ですが、一..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:43
強行採決論ー自民党・公明党の議員を罷免・落選させようー
Excerpt: 自公連立政権が成立(1998年・自自公連立としてスタート)して8年が経過しました。今現在、与野党で立場が異なる重要法案があります。?教育基本法改定案 ?共謀罪創設案 ?憲法改定国民投票法案 ?自衛隊..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:45
民主主義と最高意思決定 ー自民党 ・公明党の議員を落選させようー
Excerpt: 日本国は民主主義的政治体制です。ゆえに、国民要求の熟した問題について大胆かつ強力に政策を断行せねばなりません。小泉・安倍政権は国民要求を蹂躙し、欺きながら強力に政策を断行してきました。民主党政権は..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:48
自己責任論への反論ー人間と権力制度の関係ー
Excerpt: 人間の精神を問題にする場合に、権力制度と思想の関係、社会慣習と個人意識の関係、人権と民主主義の関係を認識する必要があるのではないでしょうか。 そもそも、人間は生まれながらにして犯罪・戦争する存在..
Weblog: 未来を信じ、未来に生きる。
Tracked: 2007-04-18 01:48
浅野氏を担いだ二人の論客、選挙が終わってみればグダグダ
Excerpt: 日本の政治は機能していない。政治家は不要だ(天木直人のブログ2007/4/20) http://www.amakiblog.com/archives/2007/04/20/#000347 一方19日..
Weblog: +++ PPFV BLOG +++
Tracked: 2007-04-21 21:29