2007年11月28日

中野区非常勤保育士解雇事件控訴審で一審をさらに大きく上回る勝利判決

 本日(2007年11月28日)、中野区非常勤保育士解雇事件の控訴審の判決でした。

 裁判所(東京高等裁判所第17民事部南敏文裁判官、安藤裕子裁判官、小林宏司裁判官)は、中野区に対し、各原告の賃金1年分に相当する損害賠償等を命じました。

 判決は、次のように述べて、中野区による解雇(雇い止め)が極めて違法性の高いものであったことを厳しく断罪しました。

 「一審原告らの職務内容が常勤保育士と変わらず継続性が求められる恒常的な職務であること、任用回数はそれぞれ9回から11回といずれも多数回となり、結果的に職務の継続が長期間に及んでいたこと、再任用が形式的でしかなく、実質的には当然のようになされていたこと、一審原告らに対する一審被告の採用担当者の言動が長期にわたる職務の継続性を期待させるものであったこと等の実態がある。」

 「一審原告らが再任用されなかった後、一審被告は、中野区立保育園において慢性的な人手不足状態にあり、その不足した労働力の補充を通年パート保育士、保育補助、育児休業代替任期付職員など多数を募集して採用していること、一審被告が非常勤保育士の職の廃止に至る根拠として挙げていた中野区行財政5か年計画で示された財政危機が実態としては根拠に乏しいものであり、実際には平成11年度以降急激に財政状況が好転し、平成16年3月末には非常勤保育士の職の廃止をする必要性がなかった可能性が高いこと、そもそも非常勤保育士の職の廃止による経済効果は小さく、財政の視点からは平成16年3月末時点で、本件再任用拒否の必要性、合理性に疑問があること、加えて、一審被告は非正規職員を恒常的に採用しており、その新規募集採用を抑制したり、合わせて非常勤保育士を適切に配置転換し、勤務日、勤務時間等の変更等を行うなどの再任用拒否(非常勤保育士の職の廃止)を回避するための努力がなされた形跡が見受けられないこと、一審被告は一審原告らに対して、「職の廃止に伴う以降の確認について」と題する書面を送付したものの、一審原告らがこれに応じなかったのでその意思確認ができなかったが、一審原告らの所属する公共一般労組中野支部が一審被告との交渉を希望していたところ、同組合に対して一審原告らの地位や再就職の問題について、具体的な対応をするなどの対応はとっておらず、再就職先の確保に関しても情報の提供に止まり斡旋といえるものではないなど再任用拒否についての協議の不誠実性などの事情も認められる。これらの事情を総合すると、一審原告らと一審被告との間の勤務関係においては、上記解雇権濫用法理を類推適用される実態と同様の状態が生じていたと認められ、一審原告らの職務の継続確保が考慮されてしかるべき事態であった」



(原告と弁護団は判決当日、次の声明を発表しました)

中野区立保育園非常勤保育士解雇事件東京高等裁判所判決に対する声明

1 中野区立保育園特別職非常勤保育士解雇事件について、2007年11月28日、東京高等裁判所民事第17部(裁判長南敏文、裁判官安藤裕子、裁判官小林宏司)は、控訴人(第1審原告、以下「原告」とする)らの訴えを実質的にほぼ認める判決を下した。

2 原告らは1993年に公務員への週休2日制導入に伴い、保育士の人員不足を解消するために採用され、毎年契約更新が繰り返され、長期にわたり中野区立保育園で特別職非常勤保育士として働いてきた。2003年9月地方自治法改正により指定管理者制度が導入され、区立保育園の民間企業等への委託が認められるや、その直後に中野区は区立保育園32園中2園について指定管理者制度による民間委託を決定し、2004年3月末には、民間委託される2園以外に勤務していた非常勤保育士28名全員を解雇(雇止)したのである。これに対し原告ら4名が、解雇無効による地位確認と2004年4月以降の賃金及び期待権侵害による慰謝料を求めたのが本件である。
 2006年6月8日の第1審東京地方裁判所民事19部(裁判長裁判官中西茂、裁判官森富義明、裁判官本多幸嗣)判決は、解雇無効による地位確認は認めなかったが、原告らの再任用の期待を法的保護に値するものとして、中野区に対し原告1人につき40万円の慰謝料支払いを命じた。本件はこの控訴審事件である。

3 高裁は以下の通り判決を下している。
 @ 判決は、特別職非常勤職員が地方自治法にもとづき任用されているとして、特別職非常勤職員の勤務関係を雇用契約であるとする原告主張や、行政処分であるとしても実質的には雇用契約であるとの原告主張は採用しなかった。したがって再任用を請求する権利はないとした。
 A しかしながら、本件再任用拒否について、第1審の事実認定に加え、2004年3月末に非常勤保育士の職を廃止する必要性がなかった可能性が高いこと、再任用拒否後慢性的人手不足状態にあったため、新たに非正規職員を多数募集採用していること、中野区主張の財政危機について根拠に乏しいこと、労働組合との協議も不誠実であったことなどの事情から、解雇権濫用法理を類推適用される実態と同様の状態が生じていたとした。実質的に見ると、雇止に対する解雇権濫用法理を類推適用すべき程度にまで違法性が強いとしたのである。
 B その結果、期待権侵害による慰謝料金額を、報酬1年分に相当する金額が相当であるとした。

4 本判決が、地方公共団体といえども、解雇権濫用法理に反するような雇止をおこなうことは、違法性が強いものであると判断した。このことは高く評価することができる。しかもその損害額を第1審の40万円(合計160万円)からさらに上乗せし1年分の報酬相当額(合計750万円)としたことは、中野区の本件雇止の違法性の強さを示すものである。また、地位確認についてはこれを認めなかったが、反復継続して任命されてきた非常勤職員に関する公法上の任用関係においても、実質面に即応した法の整備が必要と指摘している。

 中野区は、上記判決の内容を重く受け止め、原告らを直ちに原職に復帰させるべきである。

2007年11月28日
中野区立保育園非常勤保育士解雇事件原告団
  中野区立保育園非常勤保育士解雇事件弁護団


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判決全文↓
http://www.yo.rim.or.jp/~kk-ippan/nakano/high%20court/decision_whole.html

一審判決↓
http://www.yo.rim.or.jp/~kk-ippan/nakano/court/judge1.html

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この記事へのコメント
画期的な判決です。公務職員だけでなく普通の会社員にも同様のことが言えるのでしょうか
ぜひそのことも触れてほしいですね
Posted by 非常勤の男 at 2007年11月29日 23:22
ご無沙汰しています。
将来への希望を感じさせてくれる判決ですね!

郵政民営化凍結トラックバック・キャンペーンへのご協力ありがとうございます〜。
Posted by 喜八 at 2007年11月30日 20:58
非常勤の男さん、コメントありがとうございます。
高裁判決は、最高裁日立メディコ事件は、雇い止めに解雇権濫用法理が類推され雇い止めが無効となった場合に地位確認を認める法的根拠を明示していないが、民法629条1項によるものと解される(雇い止めの意思表示がなかったことになり、期間終了後も就労が続いているのと同様の状態となり、民法629条が摘要ないし類推摘要される)との見解を示しました。
民間の有期雇用契約の雇い止めの場合の地位確認の法的根拠が民法629条であるか否かは、高裁判決自身が示している通り、最高裁は明示していません。
むしろ、憲法25条の生存権、憲法27条・28条の勤労者の権利に基づいて、解雇権の濫用の場合の地位確認が認められると考えられないでしょうか。そうだとすれば、民間の雇用契約と公務員法による身分保障が及ばない非常勤公務員の任用の場合とで、不安定雇用の実態が同じであれば、等しく解雇権濫用法理を適用し地位確認を認めるべきではないか、と思います。
今回の高裁判決は、雇い止めの場合の地位確認の法的根拠について、最高裁に判断を迫る内容となっています。
Posted by siinoki-law at 2007年12月01日 09:15
喜八さん、コメントありがとうございます。
違法な雇い止めの被害を回復するのは中野区にとっては難しいことではありません。中野区が保育士のみなさんの職場復帰を実現すればよいのです。今後ともどうぞご支援をお願いします。
Posted by siinoki-law at 2007年12月01日 09:19
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