2014年05月05日

名誉棄損について違法性阻却事由が認められる場合に、同じ行為についてプライバシーの侵害が違法とされることはありますか。

質問
 名誉棄損については、真実性の抗弁・相当性の抗弁等の違法性阻却事由が認められていますが、同じ行為についてプライバシー侵害を問題にした場合にも、プライバシー侵害が違法ではないとされる場合がありますか。

回答
 プライバシー侵害については、刑法230条の2第1項のような明文の規定がないので、違法性阻却が認められにくいという面があるかもしれません。
 違法性が阻却される範囲はプライバシー侵害の方が名誉毀損よりも狭くなる場合も生じるのではないかと思います。
 しかし、プライバシー侵害についても、被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係などによって違法性の有無を判断すべきと考えるのが通説です。本人の推定的同意や受忍限度、公益の優越といった観点が考慮されます。なんでもかんでも形式的に判断してプライバシー侵害にあたるとされるわけではありません。

 参考となる裁判例として、最判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁があります。
 同最判は、公立小学校の教師に対する批判ビラに、 教師の氏名・住所・電話番号等を記載し、かつ、有害無能な教職員等の表現を用いた大量のビラを繁華街等で配布した場合において、右ビラの内容が、一般市民の間でも大きな関心事になつていた通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とする意見表明であつて、専ら公益を図る目的に出たものに当たらないとはいえず、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、論評としての域を逸脱したものでないなど判示の事実関係の下においては、右配布行為は、名誉侵害としての違法性を欠くとした事例です。
 この判決は、名誉棄損に基づく請求は棄却しましたが、教師らの「私生活の平穏などの人格的利益」が違法に侵害されたとして、教師らの請求を一部認めています。ビラに教師個人の住所等の個人情報を掲載することによって、教師やその家族が自宅に直接抗議などを受けることになるであろうことをビラの発行者は予想できたのであるから、実際に自宅に直接抗議などを受けることによって受けた私生活の平穏などの人格的利益の侵害についてビラの発行者に責任があるというような判断をしています。
 「私生活の平穏などの人格的利益」の侵害は、プライバシー侵害そのものではありませんが、それと重なる面があると思います。


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